実録!
赤壁の戦い


苦肉の策

 

 両軍が対峙した頃、思わぬ敵が曹操軍を襲った。武帝記、呉書・周喩伝によれば、赤壁で対峙した時、既に疫病が曹操軍を蝕んでいたと書かれている。この為、南下の勢いに乗って挑んだ緒戦で、曹操軍はあっさりと敗れ、一旦長江の北岸まで引き、そこに陣をひいた。周喩はこれに対し南岸に陣をひき、二軍は長江を挟んで対峙することになった。

 それにしても曹操軍は大軍。周喩は突破口を模索していた。そんな時、重臣の黄蓋が献策してきた。
「どう見ても敵は、数においては我が軍を圧倒しています。戦いが長引けば勝ち目はありません。ただ、ご覧の様に敵の水軍は、互いの船の舳先とともが入り組んでいて身動きも叶わぬありさま。焼き討ちをかければ、一挙に敗走させる事ができますぞ」
 周喩はこの策を取り入れ、成功させる為に、前もって投降したいと偽った書簡を密かに届けておいた。

 『江表伝』に残されている黄蓋が曹操に宛てた、書簡の内容はこうだ。
「私黄蓋にとって、孫氏は恩義あるお方です。これまで軍の指揮官として信任され、厚遇されてきました。しかし、今や天下の大勢を感じないわけにはいきません。江東の六郡と山越軍からなる軍勢によって、中原の百万の軍勢に立ち向かおうとしても、『衆寡敵せず』であることは誰もが認めるところです。呉の武将や役人達も賢愚に関わりなく、それが敵わぬことである事を知っています。しかし、周喩と魯粛だけは馬鹿正直で頭が固く、未だにそれを理解できないでいるのです。今、私があなたの元に身を寄せようとするのは、こうした現実を直視したうえでのこと。周喩の率いる軍勢もいずれ総崩れとなるのは必至。戦闘が始まれば、私は先鋒を勤めますが、いよいよという時に寝返って、あなたに忠誠を尽くす所存です」

 曹操は、黄蓋が派遣した使者を引見し、あれこれ質問して様子を探った。そのうえで自らこう伝えたという。
「騙す気ではあるまいな。もし黄蓋が本当にこちらに寝返って来たら、前例のない程の爵位と褒賞を取らせよう」

 ご存知三国志演義での名場面『苦肉の策』はこうして始まる。演義のように鞭打ちの場面はないが、確かにに偽りの投降劇は記載されていた。


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