実録!
官渡の戦い


戦局一変

 

 許攸という人間は欲の深い人物であった…(魏を正統とする正史にもそう書かれているくらいだから、本当にそうだったのであろう)…その為、側近にはこの投降を疑う人間も少なくなかった。しかし荀攸と賈ク、この二人の参謀が賛成したので、曹操は曹洪に留守を任せ、自ら歩兵・騎兵合わせて五千人を率いて出動した。夜中に出発し、明け方には烏巣についたとある。

 烏巣とは袁紹本陣から、北に四十里程の位置にある。淳于瓊はここで北から来た補給部隊と合流し、宿営していた。袁紹本陣に曹操軍が烏巣に向かい出陣、との知らせが入った時、当時准将軍として従軍していた張コウは
「曹公は精鋭を揃えて淳于瓊を襲ってくるでしょう。淳于瓊が敗れれば、将軍の天下統一の覇業も夢に消えます。ここは即刻救援に向かうべきです」
 と進言している。しかし郭図はこれに反論した
「張コウの策は見当違い。それより今曹操の本陣を突けば、曹操は必ず救援に戻ります。これこそ救援せずして、自ずから危機を解く手です」
 さらに張コウは
「いや曹公の陣は固く、攻めて敗れるものではありません。それよりもしも淳于瓊将軍が敵の手に落ちてしまえば、我々一人残らず捕虜となる他ありません」
と進言したが、袁紹は結局少数の軽装騎兵を救援に差し向けただけで、大軍を曹操本陣へ派遣した。

 さて烏巣にいた淳于瓊は曹操軍がこちらに向かって来たのを知ってまず驚いた。しかし、良く見れば相手は少数である。たかをくくって撃って出たのだ。そこへ曹操軍の伏兵がどっと襲い掛かる。たまらず陣営内に逃げ込む袁紹軍。そこに曹操軍がなだれ込む。しかし敵は曹操軍の二倍の数。さすがに泥沼状態の戦いになっていった。そんな中、袁紹の救援が向かってくるという事を側近が曹操に告げた。
「うるさい!後ろに回られたら教えろ」
 と曹操は怒鳴りつけ、兵士も皆死に物狂いで戦ったという。その結果、淳于瓊はついに曹操軍の楽進によって討ち取られた。
 一方、官渡の方は留守を任された曹洪が固くここを守っていたので、袁紹軍の大軍もどうしても落とせなかった。そこに『淳于瓊討たれる』の報告が入り、戦局は一変する。袁紹軍の良将で顔良・文醜亡き後、中心となってこの戦いに従軍していた張コウ・高覧の二武将が、烏巣から帰還してくる曹操軍に部下を引き連れて投降。そのまま袁紹軍は一夜にして壊滅状態となり、袁紹自身も袁譚とたった二人で黄河を渡って逃げたという。その他、袁紹軍の残兵達で偽りの投降と見なされた者はすべて生き埋めとなった。

 沮授は袁紹に置き去りにされ、この時に曹操の前に引き立てられた。沮授はいきなり大声で叫んだ
「わしは投降したのではないぞ。捕虜にされただけだ」
 実は曹操と沮授は旧知の仲であった。以下、二人のやり取り…
曹「お互い別の世界にあって会う折もなかったが、まさかこんな形で再会しようとは…」
沮「作戦を誤ったばかりに破滅したのだ。わしとしては知略に枠をはめられ、兵権を奪われて、どうにもならなかった。こうなったのも当然の成り行きだ」
曹「そうだ。袁紹は作戦も持たぬくせに貴公の献策を取り上げなかった。今度は是非私が貴公の協力を得たいものだ」
沮「叔父・母・弟をはじめ、一族のものは皆袁紹の元に残されておる。お慈悲を頂けるなら、どうか死を請け賜わりたい。これが私の一番の望みです」
曹「あぁもっと早く味方にするべきだった」
曹操はこの後も彼を厚遇したが、沮授は脱走を図って、斬首された。


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