実録！河北統一戦線5

実録！
河北統一戦線

自滅への道のり

　実は界橋の戦いの話しはこれで終わりではない。
　本営を落としたという報告を聞いた袁紹は界橋の数十里手前で馬を降り、鞍もはずした。気が緩んだのであろう。付き従うのは親衛強弩隊数十人・長槍隊百人余りだけだった。何と逃亡途中の公孫ｻﾝの騎兵二千人余りとそこで出くわしてしまうのだ。ついに公孫ｻﾝ軍は袁紹の小隊を幾重にも取り囲み、矢を雨の様に射かけてきた。傍にいた田豊は袁紹をかばい、近くの土塀の隙間に隠そうとした。そこで袁紹は兜を地面に叩きつけて叫んだ。
「進むのが男だぞ。戦って死ぬのが男だぞ。穴に隠れてまで行きたくないわい」
　強弩隊は死に物狂いで射ちまくった。少しずつ公孫ｻﾝ軍は兵が倒れていく。公孫ｻﾝ軍からすればまさかここで包囲しているのが袁紹本人だとは思わないので、犠牲を増やす前に退き始めた。そこへ麹義の軍が救援に来たので、公孫ｻﾝ軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ回っていった。こうして袁紹は九死に一生を得たのだ。

　敗れた公孫ｻﾝ軍は勃海に逃げ込み、勃海太守の公孫範と共に自国領である、幽州の薊に帰還した。公孫ｻﾝは城壁の外の東南の地に小規模の城を築き、そこに駐屯した。
　実はこの地は州牧の劉虞と目と鼻の先にあたる場所になっていた為、以前から確執のあった両者は自然と敵意を募らせていった。先に動いたのは以外にも劉虞だった。公孫ｻﾝとの一食触発の空気に、先手必勝の構えを見せたのだ。しかしこと戦に関しては、公孫ｻﾝに一日の長がある。公孫ｻﾝはこれを見事に迎撃し、さらに追撃をかけて、劉虞を捕らえて、薊に帰還した。折りしも董卓の死後、天子が使者を遣わし、劉虞の所領を増やし、公孫ｻﾝを昇格させようとした。対して公孫ｻﾝは、劉虞が皇帝を僭称しようとしていると上奏し、使者を脅かして、劉虞を死罪にさせた。公孫ｻﾝは劉虞を市場に連れて行き、さらし者にして、
「もしそなたが本当に天子になるべき人物なら、天が雨を降らせて助けてくれるだろうよ」
　とそう毒づき、劉虞をそのままそこに放置した。時は夏の盛り、強い日差しにいっこうに降らない雨。こうして劉虞は処刑された。袁紹軍は劉虞を殺害した公孫ｻﾝに対して、再び兵を挙げた。今度は、劉虞の仇討ちという大義名分を得た袁紹軍が進軍する番だった。

　公孫ｻﾝ軍は易京篭城の作戦を取った。城の周囲に十重の塹壕を掘りめぐらし、それぞれの内側に土堤を築いた。その高さはいずれも五～六丈あり、その上にさらに櫓を建てたという。特に一番内側の塹壕は十丈あったといい、公孫ｻﾝ自身もそこに居を構え、三百万石の穀物を備蓄していた。英雄記によれば、彼はそこに側室と下女数人を入れただけで、側近さえも近づけず、文書は吊り篭で吊り上げる程の念の入れようだったという。
「昔は戦えばたちまち天下を平定できると思ったが、今になってみると、私の思い通りには行かないようだ。しばらく兵を休めて農事に力を入れ、穀物を蓄えるに越した事はない。兵法にも『百の櫓を持つ城は攻めず』とあるが、この城の守りはそれどころではない」
　と公孫賛は自慢していたという。事実、櫓の数は千にものぼったと英雄記に記されている。

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